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東京高等裁判所 昭和60年(行コ)106号 判決

控訴人(原告) 市川年栄

被控訴人(被告) 新潟県知事

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は、「1 原判決を取消す。2 被控訴人が昭和六〇年七月六日付でした控訴人の被控訴人に対する同年四月一一日の審査請求を却下する旨の裁決を取消す。3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人指定代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠は、次のとおり付加するほかは原判決事実摘示と同一であるから、その記載を引用する。

1  原判決二枚目裏五行目「審査請求を」の次に「不適法として」を加える。

2  控訴人の主張

原判決は、控訴人には本件申請をする権利がない旨判示するが、これは不当な法解釈である。当事者たる普通地方公共団体の長が地方自治法一四三条一項の決定を求めるはずはないから、普通地方公共団体の住民に同項の決定を求める申請権がないとすれば、当該普通地方公共団体の選挙管理委員会の委員が職務を怠つた場合に同項による是正の途がないことに帰し、このような事態は地方自治法二条三項一号、同条一五項、憲法一五条二項、刑法六二条、二四七条に抵触し、公序良俗に反することとなる。

3  被控訴人の主張

控訴人の右主張は争う。

理由

一  当裁判所は、控訴人の本訴請求を失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加するほかは原判決の理由と同一であるから、その記載を引用する。

控訴人は、住民に対し当該普通地方公共団体の長につき地方自治法一四三条一項の決定を申請する権利を認めなければ、憲法、地方自治法、刑法の規定に抵触する事態を生じ、公序良俗に反することとなる旨主張するが、住民に対し当該普通地方公共団体の長が被選挙権を有しなくなつたこと又は地方自治法一四二条の規定に該当するに至つたことを理由として同法一四三条一項の決定を申請する権利を認めるか否かは立法政策の問題であつて、右申請権を認めないことが、憲法一五条二項、地方自治法二条三項一号、同条一五項、刑法六二条、二四七条の規定に抵触するものということは到底できないし、もとより、公序良俗に反するものということもできない。

よつて、控訴人の主張は採用することができない。

二  そうすると、原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 川添萬夫 佐藤榮一 石井宏治)

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